良い道具
数年前、友人の披露宴の余興のビデオ作りで山に登ってから、登山を始めようとする気になった。
頂上に到達した時の心地よさを知ったから。
その時は本格的な登山靴が無く、ごく普通のスニーカーで登った為、下山の途中にソールは剥げるし、足指の爪は黒くなるしで大変だった。
そうと決まれば、登山靴を買おう。ちょうど、東京に行く用事があり、上野のアメ横なら、安くていい靴があるかなと、入ったお店はトラヤスポーツ。
3階まで上がって行き、登山靴のコーナーへ。
店内には登山靴が並ぶ棚があり、ベンチや足の大きさを図る計測器があった。
登山靴の知識は何も無い私は棚に並ぶ靴の値札を見てびっくり!!
「 たっけーな 」と思いつつ。
その中でも、安いのを探していると、
「 どれ、これが君のサイズかな ?」
先ほどまで店の奥の椅子に座っていた、白髪のおじいさんが立ちあがって、棚に並ぶ登山靴を何足か選び出し私の前に置き始めた。
そして、足計測器?を指して、
「 この上に足を乗せて下さい 」
おじいさんのいわれるまま、ベンチに座り、靴を脱いで足計測器?に足を乗せてみた。
「 うん これだね 」
おじいさんは、2足の登山靴を私の前に置いて、
「 履いてみなさい 」と言う。
初めて履く本格的な登山靴に戸惑っていると、おじいさんが靴ひもを縛ってくれた。
「 歩いてみなさい 」
店内を歩いて見ると、魔法にでも掛かったかの様に足が軽い。
そのあと、自分でも靴ひもを縛って歩いてみたが先ほどの足の軽さには及ばない。
魔法のかけかたを教えてください。
おじいさんに靴紐の縛り方のレクチャーを受けた。
2足の登山靴を履き比べて、選んだ登山靴が
LOWA タホープロ GTX
¥39,800 !!
「 この靴はソールを変えれば10年は履けるよ。こういうのが良い買い物と言うんだよ 」
私が以前、登山に履いて行ったスニーカーの話をすると
「 危なかったねえ 。良い道具はあなたを助けてくれるんですよ。良い道具は長く使えるのですよ 。今日は買わなくても結構ですよ。また、いらっしゃい。」
すでに魔法にかかっていた私は、靴の購入を決意。
登山靴はワックスの塗りこみに一週間かかる為、地方に住んでいる我が家までは送ってもらうことになった。
靴の値段に妻は文句を言ったが、私はおじいさんの言った
「 良い道具 」と言う言葉にしびれていた。
その後、ネットでトラヤスポーツのことを調べると、あのおじいさんは社長で、その世界では有名人みたいでした。
あれから、何年経ったかな、
私の買ったLOWAは
まだソールを変えるほど履きこんでいない。